2009年度NIIオープンハウス  1日目

NIIオープンハウスに,発表するのではなく聞く側として参加する.

ポスター発表と基調講演はパラレルで開催されているので,発表する側であると別室でモニタ経由でちょろちょろと見ることになりがちだけれど,今回は会場で二件じっくり聞くことができた.

一件目はMITメディアラボの石井裕さんの「独創・協創・競創の風土とタンジブル・ビット」というタイトルで,彼の研究の紹介だった.


最近テレビ番組(NHKのトップランナー)で取り上げられているのを見て,常に走っている(物理的な意味で実際に階段を駆け上がったり)がやたらと印象に残っていたのだけれど,他の人もやはりあのシーンが一番インパクトがあったみたい.

対話の研究をしているせいなのか,話の内容以外に話し方の方も気になってしまうのだけれど,講演での語り口はテレビでのインタビューとはまた違ったスタイル.単語を連発する感じなんですね.小泉首相のワンフレーズを連発するスタイルから助詞・助動詞を省いたような感じと言ったらいいのだろうか,独特でした.

プレゼンテーションは素晴らしくて「アナログな手触りが大事だよね」という話は,下手をすると単なる懐古主義に聞こえてしまいかねないのだけれど,導入に使っていた賢治の詩の手書き原稿が,印刷された詩を読んだ時とまるで違う印象を与えるというエピソードは,ものすごく腑に落ちる.
色々なデモが印象的だけれど,それぞれの背景となる動機なども絡めて紹介されているのがよかった.一番気に入ったデモは,I/O Brushという,実空間からカメラで色やパターンを取り出してきて,それを使ってCGを作成できるというもの.石井さんも言っていたけれど,表現の可能性がぐっと広がるし,何より世界の見方が変る.世界がカラーパレットとして見えてくる.
逆に最新のデモのgSpaceという物は,身振りでディスプレーを操作するための言語らしいのだが,デモでは何をやっているかがよく分からず,ピンとこなかった.


もう一つの基調講演は新井紀子先生.「役に立たなきゃ数学じゃない」というタイトルから想像としていたのとはちょっと違って,内容は数学史の紹介だったと言っていいと思う.非常に面白く語られていて,紹介されていたユークリッドの「原論」を読んで(眺めて)みたくなった.
特に数式を書く,といった記法の発達が数学の新しい世界を開いたということを強調されていて,「意味を考えることなく機械的な操作が可能」「出てきた式の解釈でまだ見たことのない世界を予測可能」といったことが可能になった,という見方をされていた.
確かに腑に落ちるところがある.式の世界で考えることによる機械的な操作(運動)というものが,自然言語での意味解釈をしながら進めるものに優越する理由はそこにあるような気もする.

抽象化されたものを具体の世界に引き戻そうとする石井先生のTangibleBitの世界は,数学が5000年にわたって進めてきた抽象化の逆回しなのかもしれず,ただそれが逆に流れていくというよりは,人間にとって気持ちいいところを探る試みの始まりのようなものなのかな.

その他の収穫?としては,岡田仁志先生らの書かれた「ヒカリ&つばさの情報セキュリティ3択教室」という教科書を頂いたので,今度リテラシーの授業の中で,ちょっと使ってみようかと思ったのだが,基本的に自習用のコンテンツであるようだ.