「精神科医は今日もやりたい放題」感想
- 作者: 内海聡
- 出版社/メーカー: 三五館
- 発売日: 2012/03/23
- メディア: 単行本
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内科医による,精神科批判本.研究がらみで臨床心理学に触れることはあるものの,精神医学には疎いので,少し知識を仕入れたいという動機で読んでみる.
タイトルからもわかるように,学術的な本ではなく,ゴシップ的なのだが,著者は至って真面目に問題を訴えている.
主張を荒く言ってしまえば,「精神病なんていうものはない」「薬は使うな」というところか.
元々の自分の考えも似たところがあったせいか,論は頷けるものが多い.ただし,主張の根拠は明確ではない.各エピソードは,海外での新聞報道や,論文等がベースになっているのだけれども,引用もとが明示されているわけではないので,読者がたどることができない.末尾に【参考HP】というのが挙げられていて,ここをたどればいくつかのソースは分かるのだろうが.特に言及されていたのは:
光の旅人 - メンタルヘルスの真っ赤なウソ - 精神医療に殺されないために
で,かなり本格的に薬害にまつわるトピックを調べている模様.
最初に取り上げているのが,米精神医学会に対する米心理学会の批判で,DSM改訂に際して精神病の領域を広げるな,薬物は長期的には効果はないという主張.Psychology Today掲載のDMS-Vに対する批判は,以下のタグでまとめられている.
http://www.psychologytoday.com/blog/dsm5-in-distress
うつ病に対して薬を使う論拠となっているモノアミン仮説(セロトニンやドーパミンが精神病に関係するのではないかという仮説)は,否定されているらしい.にもかかわらず,2010年時点でも多くの人がうつ病や統合失調症はセロトニン・ドーパミンの「化学的不均衡」が原因と考えているらしい.
では薬物を使わないアプローチの代表例である心理療法については,p.29-30で否定的に触れられていること,p.196で,カウンセリングで治されてしまうと,カウンセラーに頼る「カウンセリング中毒」になってしまう,という指摘程度で,この本では踏み込んで取り扱われることはない.
著者の提案する精神的問題への対処法は,薬は使う場合でも緊急避難的に使うだけにして,長期的に用いてはならない.精神的な問題を引き起こす社会的な状況を,本人の意思で解決することのみが,根本的な対策となる,といったあたりか.
特に問題視されているのが,幼児への精神治療薬の使用で,障害を生み出す危険があると.NIMHのページも,自殺リスクが2%から4%に増大するから気を付けて,というようなことが書かれているが,あくまでも薬を使うことが前提のよう.
精神薬の薬害問題については,「善意の陰謀」という言葉を生み出した,チャールズ・メダワーの本「暴走するクスリ?」を読めばよいようだ.イギリスの事例らしい.イギリスで精神医学の問題点が指摘されたことと,心理療法の精度への組み込みが進んだこととが,関連しているのだろうか.
- 作者: チャールズ・メダワー,アニタ・ハードン,吉田篤夫,浜六郎,別府宏圀
- 出版社/メーカー: 医薬ビジランスセンター
- 発売日: 2005/12
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この本の見立てで一番なるほどと思ったのが,親が子供を精神病院に連れて行くというメカニズム.「精神病と診断されるの物投薬されるのも本来は親であるべきはずなのに,...先に子どもを精神病に仕立て上げる」,親が子どもの「おかしさ」に耐えられず,自分がおかしいのではなく子どもがおかしい,という診断をもらおうとする可能性は,確かにありそうだ.
国内のエピソードで知らなかったことが,近頃公共施設等で見かける「お父さん,眠れてる?」という,うつ・自殺対策ポスターが,静岡県富士市で2006年から始まったキャンペーンに起源をもつということ.著者によれば,これは薬の投与を増やすことで自殺増加につながり,逆効果だったらしいが.別の理由で,あのポスターには疑問があったのだが.
不思議なのは,日本の抗不安薬売り上げがダントツ世界一位であること.アメリカのように,テレビCMで精神科にかかるように日々勧められているわけでもないのに,なぜなのか.精神医療の後進性が原因なのだろうか?