「ソニーコンピュータサイエンス研究所、所眞理雄社長に聞く」を読んで

ちょっと前の記事なのだが,今読んだら,いい「大きいことを考えるきっかけ」になった気がするので,メモ,というか気になったフレーズの引用集*1

QURIOのソフト的な講演を聞いたのを最後に,最近CSLが何をやっているのか正直全然把握していなかったのだが,

今では、コンピュータサイエンスの研究を完了し、システム複雑系脳科学を含むヒューマンインターフェース、そして、新たな方法論でもあるオープンシステムサイエンスという、研究開発テーマに取り組んでいる。

ということらしい.

設立にあたっては,以下の考えがあったらしい.

この時期、日本の企業が海外に研究所を作り始めていましたが、なぜ日本の企業が、日本に研究所を作ろうとしないのかという点が疑問で仕方がなかった。

すばらしい.そしておそらく人を採用しやすそうだということで,その時期に海外に作った他の企業の海外の研究所よりもおそらく成功したのだと言っていいのかな?
CLSでは方向性を10年ごとに変えるのが特色らしく,

設立時には、分散OSやコンピュータネットワーク、インターフェース、人工知能といったコンピュータサイエンスを研究テーマとしてスタート

'98年以降の第2期はヒューマンインターフェースの時代に入り、システム生物学や経済物理学、システム脳科学といった「基礎科学」、発達認知ロボティクス、ソーシャルインタラクション、インタラクティブミュージックといった「ライフスタイル」、ユビキタスコンピューティング、エモーショナルインタラクション、実世界指向インタラクションなどの「インタクション技術」などの研究

2008年からスタートした第3期のオープンシステムサイエンス

ということなのだが,このオープンシステムサイエンスとは何かというと,現実社会のように動きを止めて手を加えるということができない対象のシュミレーションをリアルタイムで実行する例えば「リアルタイムの全地球シミュレータ」などを目指すものらしい.

ちょっと哲学的なところもありますから、歳を取らないとじっくりとできないテーマですし、私にはちょうどいいんですよ

ということで,そういうことはよくあるなと同意するのだけれど,年を取ってから哲学的になって始めたことって,成功することがかなり難しそうなので,これはチャレンジだな,と思った.

「これからは、サスティナビリティやエネルギーなどの分野にいかないといけないだろう。どう思うか」とみんなに聞いたんです。すると、「そうだ、そうだ」って、ノリがいいんです。

これからはエネルギーが研究や産業の鍵というのは同意なのだけれど(といってもエコ系というよりバッテリーや発電といった方向で),こういう風に皆が賛成するのも不思議.自分がひねくれていて,自分でそう思っていても人に言われると素直に賛成できない性格だからか?



企業研究所ということに関してなるほどと思ったのが,

研究所自体の人数を増やすと、当然、予算も膨れ上がる。予算が大きくなればなるほど、短期的なリターンが求められる。
設立時に、売上高の1万分の1の予算という目安を掲げたのですが、これは適切な規模だったようですね。

と,研究所から出てきた種を膨らませずに切ってしまうことに関して,

ビジネスとして成り立たないと判断した。考えてみれば、研究で使う費用なんてゴミみたいなものですよ(笑)。
だが、これが開発となった途端に使う費用は膨大になる。どんどん赤字が増えて、最後に決断しなくてはならないというのではなく、なるべく早く決断した方がいい。

という話で,研究レベルの成果を事業化しなくてはもったいないと思ってしまっては,ビジネス的にはダメなんだろうなと.こういう判断ができるのはすばらしい.



ソニーという会社については,

かつて、多くの人がコンシューマエレクトロニクス機器を欲していた時期に、ソニーはいい仕事をたくさんしてきた。ただ、いまの世の中を見ると、コンシューマエレクトロニクス機器という領域だけに縛られすぎると、仕事の幅に限界がでてきてしまう。
コンテンツビジネスを含めた新たな方向性を打ち出そうとしている。それは間違いない方向だと思います。ここにソニーの新たな舞台がある。振り返れば、ソニーが、CBSレコードやコロンビア・ピクチャーズなどのコンテンツ事業を買収したのは'80年代の終わりです。ということは、いまの決断は、20年以上前に行なわれ、そして、これまでの間、苦しんできた。この経験を経て、新たな舞台に進出している。一方で、もう1つ考えなくてはならないのは、次の変革に向けて、ソニーはなにを投資しているのかということです。

社長が変わってまたソフト方面に行こうとしているそうですが.それでIBMの話が出て,

苦しみを乗り越えた企業にIBMがある。ハードウェアの会社が、ソフトウェアの会社になり、そして、サービスの会社へと変化した。そして、さらに、サービスとユーティリティコンピューティング、コンサルテーションの会社に変貌しようとしている。社長が約10年ごとに代わり、生き方が正しく変わっている。

これは最近IBMの人のセミナーに出たりして改めてIBMはすごいなと思ったところだったので,納得.昔のIBMは知らないのだが,今のIBMは,IBMが打ち出したコンセプトに世の中が動いていくだろうと思わせるものがある.そういうところはGoogleMicrosoft以上なのではなかろうか.(または自分の好みと方向が似ていることが多いから高く評価してしまってるのかもしれないが).




ようやく本題の研究に関する引用に戻ると,

苦労したのは人が採れなかったことですね。ソニーが、コンピュータサイエンスをやるといっても、「どうせ、すぐにやめるだろう」と(笑)。

仕事として論文をかける人はいるが、そういう人はいらない。めちゃくちゃ悩んで、新しいことに情熱を持つ人、世界一になりたいという情熱を持つ人でないと嫌だった。入った人にも、「ここに入ったから、すぐに論文を書こうと思わず、絶対に必要とされる重要なテーマ、必ず世界一になるというテーマが出てくるまで、じっくり探しなさい」といっているんです。

嫌われていても、変わっている奴は保護したい。そういう人たちが増えると、疑問を持つことが増えて、なにかが生まれる。

という採用に関する話があって,本当にインパクトのある研究という話題があり,

研究所はテーマにしがみついては駄目なんです。研究というのは、ある程度やると完成してくるものです。それでも、テーマを変えずに研究を続けていくと、重箱の隅をつつくような、必要のない研究をしていくことになる。もちろん、論文も定期的に出すことはできるだろうし、評価もそれなりにあるだろう。だが、会社への貢献、社会への貢献という観点から見たらどうか。明らかに下がっていくことになる。

夏の合宿や、春のレビューを行なうのですが、全員が疑問を持つ人たちの塊ですから、とにかく議論が激しい。それはおかしい、なんのために研究するのか。けちょんけちょんにやりますから、プレゼンをしている本人は泣きそうになりますよ。ただ、本人もどこか違うと思っているところがある。一番本人が知っているんですよ。それを教えられるんです。納得できない場合には、最後まで戦う。どうにもならない時には、そこで一度議論を締めて、また半年後にやる。今度は状況が変わっているんですよ。それが人を育てることにつながる。撃沈されても這い上がってこないと駄目です。這い上がってきたときには、みんなが大きな歓声と拍手で迎える。こういう風土がソニーCSLにはあるんです。

こういうのは打たれ弱い自分としては嫌すぎなんだけれど,正しいなと感じる.もちろん今やっていることを完結するということが大事なのだけれど,次の方向をそろそろ考えようかなと思い始めた.

*1:引用ボックスの色が薄くて地の文との見分けがつきづらい.どこか設定でいじれるのだろうか